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2020.12.17 (木)

「 中国のTPP横取りを許すな 」

『週刊新潮』 2020年12月17日号
日本ルネッサンス 第930回

中国の手法は時代が変わっても変わらない。一番賢いのは策略を巡らして相手を出し抜くことだと信じる民族は、政治体制が王朝であろうと共産党独裁であろうと、同じ発想で問題解決に当たる。その中国に、いま、日本は最大の警戒心を抱かなければならない。

彼らは長い年月をかけて米国を完全に騙した。その結果、念願の世界貿易機関(WTO)加盟が20年前だった。当時彼らは国有企業は減らす、中国企業への不公正な補助金も優遇税制もなくすなど、多くの空約束をした。西側先進諸国が騙され続けた年月に、中国は豊かな国々の経済を中国経済のサイクルに巻き込み、不公正な手法で自国の利益を貪った。そうして世界第二の経済大国となり、いまは米国追い落とし戦略に堂々と取り組んでいる。

中国が米国を完全に屈服させ世界覇者になるためには、しかし、日本を抱き込まなければならない。日本取り込みの第一歩を、中国はすでに具現化したのではないか。

11月15日、東南アジア諸国連合(ASEAN)10か国に日中豪韓ニュージーランドの15か国で構成する地域的包括的経済連携(RCEP)に日本は署名した。署名に至る実情を日本政府中枢の人物が語った。

「ASEAN、特に今年の議長国のベトナムが締結に前向きでした。日本が反対すれば逆に日本がASEAN諸国から浮き上がる状況をつくられ、署名せざるを得なかった」

中国中心の経済圏が南シナ海・西太平洋に誕生するのを日本は懸念し続けた。当初の構成は「ASEAN+日中韓」だったのを、日本が豪印ニュージーランドを入れた。インドはやがて中国を凌駕する人口大国だ。世界最大の民主主義国家でもある。わが国はインドの参加を得てRCEPの中国主導を防ぎたかった。

昨年まで日本案は順調に進展していたが、中国との間の貿易赤字拡大を嫌うインドが、中印国境紛争などの国内問題もあって不参加に転じた。日本はインドの翻意を説得できないまま、RCEPを締結した。

メチャクチャな主張

RCEPは経済連携体としては基準は高くない。関税撤廃率も全体として91%にとどまり、国有企業優先などの不公平な慣習に対する基準も曖昧だ。日本主導でまとめた環太平洋戦略的経済連携(TPP)の関税撤廃率が99.3%で、国有企業撤廃にも厳しいのに較べれば、両者の違いは大きい。だが、世界人口の30%、22億人と、世界のGDPの30%、26.2兆ドルの大きな塊がRCEPだ。その中心に中国が座ることの意味は非常に深刻である。

中国の李克強首相は11月18日、早速、その意義を語った。

「RCEPはアジア太平洋地域諸国の多国間主義と自由貿易を守る共通意思の体現」で、「産業チェーン、供給チェーンの安定に役立つ」。

米国への明確な挑戦である。世界諸国を「アメリカ第一」の視点でしか見ない米国と中国は違う、中国こそが真の国際社会の指導国となり得る、米国の時代は終わり中国の時代だと、宣言したに等しい。

だが、米国に取って替わるにはもっと多くの課題がある。RCEPで南シナ海・西太平洋の支配を固め、さらにTPPに入って、中国支配圏を拡大しなければならない。11月20日、習近平国家主席がTPP参加の意向を示したのは、まさにその乗っ取りのサインと読むのが正しい。

インド抜きのRCEP、アメリカ抜きのTPPこそ中国の世界経済支配の道だろう。大戦略実現のカギが、TPPもろとも日本を取り込むことなのだ。私たちの国と産業がいま、中国の最大のターゲットになっていることを、日本政府、産業界、そして私たち自身も識(し)らなければならない。

中国は10月に輸出管理法を定めた。「国の安全と利益」に反する経済行動、輸出入に対しては、報復措置を取るとした(48条)。同規定は域外での経済活動にも適用される(44条)ため、日本企業も対象である。報復措置は刑事罰も含む。

中国は自国民が殺害されたり領土が奪われた場合だけでなく、国家の利益が脅かされる場合、戦争に踏み切る法律案を公表済みである。利益に反する経済活動に「域外」、つまり中国以外の地域、即ち全世界の全企業に刑事罰まで科すという。中国の国内法を国際社会に適用するというメチャクチャな主張はこれが初めてではない。中国の正体がこんなものだとは誰も想像できなかっただろう。

世界経済を中国が悪用し始めた第一歩がWTO加盟である。彼らの加盟交渉の経緯を辿ると、中国人の熱意、戦略、戦術が見えてくる。一連の交渉を担った朱鎔基氏は、鄧小平と共に毛沢東に粛清されて約20年間、死と隣り合わせの厳しい時代を過ごした。試練を不屈の精神で生き抜いた兵(つわもの)は、1991年から2003年まで副首相、そして首相としてWTO問題に取り組んだ。

日米分断を戦略目標

加盟交渉の最終段階、99年4月の訪米で、朱氏は米政財界の聴衆を前に語っている。

ブッシュ大統領(父)の安全保障問題担当補佐官を務めたスコークロフト氏が真っ先に、台頭した中国は米国のライバル、敵になるかと尋ねると、朱氏は長い答えを返した。中・米の差は大きい。中国は核戦力もGDPも小さい。差は何十年も埋まらないが、中国の成長は大きな市場を意味する。中国の台頭は米国の利益だ。米国は中国脅威論を中国好機論に変えるべきだ、と力強く語っている。

朱氏は米国要人に会う度に、米国の貿易赤字は中国の所為ではない、中国側の利益は全体のごく一部にとどまる、中国よりも中間に介在する日本こそ大きな利潤を得ていると繰り返している。当時も今も中国は日米分断を戦略目標としているのである。

頭の切れる朱氏も、しかし、中国人の枠を超えることはできず、幾つか、馬脚を露す反論をしている。

99年4月2日、「ウォール・ストリート・ジャーナル」(WSJ)紙の発行人、ピーター・カン氏との会談で、天安門事件で戦車の前に立ち塞がった若い男性について訊かれた。朱氏は直ちに言い放った。「私にも想い出す映像がある。米軍の爆撃でベトナムの少女が裸で逃げる映像だ。(中・米)両者には基本的な相違点がある。天安門ではタンクは青年を轢かずに回り込んだ」

WSJの発行人は何も反論できなかったが、ベトナム少女の悲劇は両国の血みどろの戦争の中で起きた。天安門では中国政府が国民を殺した。青年は逃れたが、幾千幾万の中国国民が政府に殺害され、私たちは今もその正確な数を知らない。カン氏が指摘すべきは政府による自国民大虐殺の非である。

日中関係も要注意だ。記者会見で尖閣問題を好き放題に言われて反論できなかった茂木敏充外相も外務省も、もっと厳しく構えることだ。

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